不要な労使トラブルをなくすために
こんにちは。歯科経営コンサルタントの小澤です。
今回は、意外と知らない人が多い「労務」に関する基礎知識をご紹介します。情報社会の今、インターネットでちょっと調べれば何でも知り得る時代になりました。働く人を守るための知識と思われがちですが、同時に「雇用の定着」や「労使トラブルを減らす」など医院にとってのメリットも多いのです。ぜひ参考にされてください。
意外と知らない知識その1:有給休暇
「パートやアルバイトには有給はあげなくていい」ひと昔前まではそんな話をしている経営者はたくさん居ました。ですが、これは真っ赤なウソです。
正社員だけではなく、パートやアルバイトの人にも条件に該当する人全員に有給休暇を付与する義務があります。
2.全労働日の8割以上出勤している
条件少ない・・・。と思われた人もいるのではないでしょうか。そうです、正社員でもパートアルバイトでも雇用形態は関係なくすべてのスタッフに平等に「有給休暇」を付与する必要があります。
また、有給休暇には2年の時効があるため、前年度に取得されなかった有給休暇は次年度に繰越さなければなりません。
取得日数の義務化
昨年までは、年休の取得日数については特に義務は無かったのですが、2019年4月の法改正により「年5日の年休を労働者に取得させることが使用者の義務」(年休が10日以上付与される労働者が対象)となりました。
スタッフが遠慮して有給を取らないというケースも多いですが、「この日までに有給を使ってほしい」という事をきちんと話し合いましょう。
逆に、忙しくてもお構いなしに有給を取得されてしまい困っている・・・という話もよく聞きます。実は、そういう時期は避けてもらえるように医院の側にも「時季変更権」という権利があります。 有給の申請をされた時期に、年次有給休暇を与えることで正常な運営を妨げる場合(同一期間に多数の労働者が休暇を希望したため、その全員に休暇を付与し難い場合等)には、他の時期に変更することができます。
どちらにしても、有給取得に関して揉めないために重要なことは「院長とスタッフ」の信頼関係です。この時期は避けて有給を取った方が良いな、とか、医院の義務なんだったら5日有給取らないと。という風にスタッフが自ら考え行動してもらうのが一番ですよね。
年次有給休暇の付与日数や細かいルールについては、厚生労働省が発行するリーフレットも参考にしてください。
意外と知らない知識その2:マイナンバー
平成28年1月からはじまった「マイナンバー制度」まだまだ活用しきれていない人も多いかもしれませんね。
マイナンバー取得の対象者
- スタッフ(パート・アルバイト含む)全員が対象です
マイナンバーが必要な手続き
- 源泉徴収票、給与支払報告書、支払調書などへの記載
- 雇用保険被保険者資格取得届などへの記載
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届、報酬月額算定基礎届などへの記載
マイナンバー取得の注意点
- 取得する際には「利用目的」を明示する必要があります。
- 番号の確認をする際には「身元確認」が必要です。
※マイナンバーカード(個人番号カード)の場合は、1枚で本人確認と身元確認が可能。
※通知カードなどの場合は、個人番号の他に運転免許証などで身元確認が必要。
- 番号を安全に管理する義務があります。
取得時の注意点については、内閣府がチェックリストを提供していますので参考にしてください。
マイナンバーの提出を拒否された場合
マイナンバーの提出自体は義務ではありませんので、提出を拒否するスタッフもいるかもしれません。情報漏洩や不正利用を心配する人が多いようですが、安全に管理することや使用の目的をきちんと説明した上で、それでも提出を断られてしまった場合には、強要することは出来ませんので注意しましょう。
拒否されたら仕方ないし、もう関係ないかな。と思うかもしれませんが、なんと理不尽なことに・・・・。医院側が役所に提出する書類に番号を記載するのは義務となってしまうため、記載が無い場合「違反」となってしまいます。
スタッフが提出してくれないのに「違反」になるなんて・・・。と思いますよね・・・。でも安心してください。提出を拒否したということを書面で残せるように「マイナンバー提出拒否確認書」に署名捺印してもらえば大丈夫だそうです。インターネットで検索するとひな形がたくさん出てきますので、必要な場合があればひな形を利用しましょう。
でも、なんだか誓約書みたいで嫌ですよね。できれば拒否確認書に署名してもらわなくても済むようにスムーズに提出してもらいたいものです・・・。
年次有給の件でも書きましたが、ここでも重要なのは「信頼関係」です。スタッフから信頼されていれば「情報漏洩や不正利用」を心配することはまずありません。ただ院長先生や医院を困らせたいから提出を拒否するような人が居たとすれば、雇用契約について見直す必要があると判断できます。
ただし、マイナンバーの提出を拒否したこと自体は「解雇」の理由には出来ませんので、注意してください。
マイナンバーに関しては、内閣府が提供しているホームページの「法令・ガイドライン」、「よくある質問」なども確認してみてくださいね。
意外と知らない知識その3:労働保険・社会保険の加入
労働保険や社会保険の加入義務に関しては、まだまだ知らない先生も多いようです。まずは、それぞれの加入条件を見てみましょう。
労働保険(雇用保険・労災保険)
スタッフを一人でも雇っていれば労働保険の加入手続きが必要です。院長一人で診療されている場合は必要ありませんが、1人でも雇用している場合は加入の義務があります。
また、パートやアルバイトの労働保険加入に関しては見落とされがちですが、以下の①②両方に該当する場合は、加入義務がありますので、今一度確認をしてみましょう。
②1週間の所定労働時間が20時間以上であること
実はパートやアルバイトに対して労働保険とくに雇用保険の加入義務を怠っている経営者は一般企業の中でもまだまだ多いんです。歯科医院でも個人経営の場合が多いため、見落とされがちです。
加入対象者がいるにもかかわらず、加入手続きを怠った場合6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられる可能性もあるようです。知らなかったでは済まされないですね・・・。
自分の医院で働いているスタッフが対象であるかどうか不安な場合は、最寄の公共職業安定所(ハローワーク)へ確認をしてみましょう。
社会保険
社会保険は、まず「会社として社会保険の適用を受ける」手続きが必要となります。
「医院が社会保険に加入する」→「スタッフも加入する」という流れになります。※もちろん同時に手続きすることも可能です。
社会保険の加入義務があるのは「強制適用事業所」に該当する医院です。強制適用事業所とは、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)、また従業員が常時5人以上いる個人の事業所と定義されています。具体的には、法人化している医院。また、個人経営であってもつねに5人以上のスタッフを雇用している場合には、社会保険の加入が義務となります。
強制適用事業所に該当しない場合でも、院長の希望で社会保険の制度を取り入れたい場合、スタッフの半数以上が同意すれば加入することができます。義務では無いけれど、スタッフからの要望が多く導入を検討している、という先生も多いのでは無いでしょうか。
ただ、社会保険の加入は、医院経営においては大きな痛みを伴う場合もあります。スタッフの満足度や雇用促進のために加入を考えている場合は、そのために起こりうる双方にとっての不利益についても考慮しておきましょう。
社会保険加入対象者
つぎに、社会保険の加入義務がある医院における、加入者の条件を見てみましょう。
・正社員や法人の代表者、役員などは加入対象者となります。
・パートやアルバイトにおいても、1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上である場合には加入対象者となります。
※4分の3未満であっても①週の所定労働時間が20時間以上、②勤務期間が1年以上見込まれること、③月額賃金が8.8万円以上、④学生以外、⑤従業員501人以上の企業に勤務していること5つの要件をすべて満たす場合は対象となる。と定められていますが、歯科医院の場合には「⑤従業員501人以上の企業」にはなかなか該当しないので、説明を割愛します。
社会保険の加入義務が無いからと言って、労働保険(雇用保険・労災保険)まで加入義務が無いわけではありません。労働保険に関しては、おそらくほとんどの医院では加入義務があると思いますので、加入してないな・・・と思われた先生はすぐに手続きを行ってくださいね。
詳細については日本年金機構、もしくは厚生労働省のホームページもご覧ください。
まとめ
今回お伝えした内容は、労務問題においては基本的な内容ばかりです。採用に困っている医院やなかなか人が定着せずに困っている医院は、まず働くスタッフ達の労働条件の見直しや、スタッフ達が受けるべき制度で見落としているものがないかどうかを一度確認してみましょう。
特に、年次有給や雇用保険、社会保険の加入に関しては、不要な労使トラブルを避けることにもなりますので、きちんと整備しましょう。
とはいえ、日々の診療で疲れているところ、更に労務問題についても考えなくてはならない・・・なんて本当につらいですよね。不安な点が一つでもある場合は、専門家である社会保険労務士の方に相談してください。
もちろんすぐ社会保険労務士に相談するのは・・・と思われた場合は、東京歯科経営ラボでもご相談をお受けしています。悩んだときは一人で困らずに、すぐに相談を!
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