歯科医院の比較広告は違法?「地域No.1」「〇〇専門」の正しい表現方法

 

目次
1. 医療広告ガイドラインが禁止する比較広告とは
2. 「地域No.1」「最高」などの最上級表現がNGな理由
3. 「〇〇専門」「専門医」の正しい使い方と落とし穴
4. OK表現とNG表現の具体例50選
5. 違反した場合の罰則と行政指導の実態
6. 適法な範囲で医院の強みを伝える代替表現
7. まとめ

 

1. 医療広告ガイドラインが禁止する比較広告とは

医療広告ガイドライン(厚生労働省)は、患者様が適切な医療機関を選択できるよう、誇大広告や虚偽広告を厳しく規制しています。その中でも特に問題となるのが「比較広告」です。

比較広告とは、他の医療機関と比較して自院の優位性を示す広告のことです。「地域No.1」「県内トップクラス」「他院より優れた治療」といった表現がこれに該当します。これらは、客観的な事実として証明できない限り、すべて違法とされます。

2018年の医療法改正により、ホームページも「広告」として扱われることが明確化されました。それまでは「ホームページは広告ではない」という解釈もありましたが、現在では明確に規制対象です。つまり、ホームページに「地域No.1」と書くことも、チラシに書くことと同様に違法なのです。

なぜ比較広告が禁止されているのでしょうか。理由は、患者様の誤認を招くからです。「地域No.1」と聞けば、患者様は「この医院が最も優れている」と信じてしまいますが、その根拠が不明確であれば、誤った選択をする可能性があります。医療は命と健康に関わるため、広告による誤認は他の商品以上に深刻な問題となります。

医療広告ガイドラインは、「客観的事実であることを証明できない内容は広告してはならない」という原則を定めています。証明できない比較表現、最上級表現、主観的評価は、すべて違法です。「知らなかった」では済まされず、違反すれば行政指導、最悪の場合は罰金や医院名の公表という厳しい処分が待っています.

 

2.「地域No.1」「最高」などの最上級表現がNGな理由

「地域No.1」「最高の技術」「最先端の治療」といった最上級・絶対的表現は、医療広告ガイドラインで明確に禁止されています。具体的な理由を理解しましょう。

客観的根拠が証明できない

「地域No.1」と表現するには、地域内のすべての歯科医院と比較し、何らかの指標で1位であることを客観的に証明する必要があります。しかし、実際にそのような調査を行うことはほぼ不可能です。患者数、治療成功率、患者満足度など、何を基準にしても、すべての医院のデータを収集し比較することは現実的ではありません。

仮に第三者機関が調査したデータがあっても、その調査方法が適切か、サンプル数が十分か、恣意的な選択がないかなど、厳密な検証が求められます。多くの場合、これらの条件を満たすことは困難です。

誤認を招く抽象的表現

「最高の技術」「最先端の治療」といった表現も、何をもって「最高」なのか、何をもって「最先端」なのかが不明確です。医療技術は日々進歩しており、「最先端」の定義も曖昧です。また、「最高」は主観的評価であり、客観的事実ではありません。

こうした抽象的表現は、患者様に「この医院なら絶対に治る」「他の医院より優れている」という誤った期待を抱かせ、適切な医療機関選択を妨げます。

実際の違反事例

2022年、関西のある歯科医院がホームページに「地域No.1の実績」と掲載していたところ、保健所から指導を受け、表現の削除と再発防止策の提出を求められました。この医院は、患者数が多いことを根拠にしていましたが、他院の患者数と比較した客観的データがなく、違法と判断されました。

また、「県内トップクラスの設備」と表現していた医院も、何を基準に「トップクラス」と判断したのか説明できず、行政指導を受けています。これらの事例は、曖昧な比較・最上級表現が確実に摘発されることを示しています。

許容される表現との違い

では、どう表現すれば良いのでしょうか。客観的事実のみを記載することです。「開業20年」「延べ治療患者数5万人」「歯科用CT導入」など、検証可能な事実であれば問題ありません。「地域No.1」ではなく「開業20年の実績」、「最先端の治療」ではなく「2024年に導入した歯科用CT」というように、具体的かつ客観的に表現します。

 

3.「〇〇専門」「専門医」の正しい使い方と落とし穴

「インプラント専門」「矯正専門」「小児歯科専門医」といった表現も、使い方を誤ると違法となります。正しい理解が必要です。

「専門医」は学会認定が必須

「専門医」という肩書きは、法律で定められた特定の学会から正式に認定を受けた場合のみ使用できます。日本口腔外科学会、日本歯周病学会、日本小児歯科学会など、厚生労働省が認めた学会の専門医資格を持っていれば、「○○学会認定専門医」と表記できます。

逆に、資格がないのに「インプラント専門医」「審美歯科専門医」と名乗ることは違法です。インプラントや審美歯科には公的な専門医制度が存在しないため、どれだけ経験があっても「専門医」とは名乗れません。

「専門」と「専門医」の違い

「専門」という言葉は、「専門医」ほど厳格ではありませんが、やはり注意が必要です。「インプラント専門歯科医院」と表記すると、インプラントしか行わない医院という印象を与えます。実際には一般歯科も行っているのに「専門」と名乗ると、虚偽広告とみなされる可能性があります。

安全なのは、「インプラント治療に力を入れています」「インプラント治療を得意としています」という表現です。これなら、他の診療も行っていることを否定せず、かつインプラントに注力していることを伝えられます。

「認定医」の表記ルール

「認定医」も「専門医」と同様、学会から正式に認定を受けた場合のみ使用できます。「日本口腔インプラント学会認定医」のように、学会名を正確に明記する必要があります。単に「インプラント認定医」だけでは、どの学会の認定か不明確で、誤認を招く可能性があります。

また、認定医の資格は更新制の場合が多く、期限が切れた資格を使い続けると虚偽広告となります。資格を表記する場合は、常に有効期限を確認してください。

診療科目の標榜ルール

「小児歯科」「矯正歯科」「口腔外科」といった診療科目の標榜(看板に掲げること)にもルールがあります。歯科医師であれば、これらの診療科目を標榜すること自体は可能ですが、実際にその診療を行っていない、または専門的知識・技術がないのに標榜すると、問題となります。

「矯正歯科」と標榜しながら、実際には矯正治療を行っていない、または他院に紹介しているだけという場合、患者様を誤認させる可能性があり、行政指導の対象となります。

 

4.OK表現とNG表現の具体例50選

実際にどのような表現が許され、どのような表現が禁止されているのか、具体例で理解しましょう。

実績・経験に関する表現

NG: 「地域No.1の実績」「県内トップの症例数」 OK: 「開業15年、延べ治療患者数3万人(2024年3月現在)」

NG: 「豊富な経験」「確かな実績」 OK: 「インプラント治療500症例の経験(2024年3月現在)」

技術・設備に関する表現

NG: 「最先端の治療」「最高の技術」 OK: 「2024年に導入した歯科用CT」「マイクロスコープを使用した治療」

NG: 「最新鋭の設備」 OK: 「2023年に導入した○○社製インプラントシステム」

効果・安全性に関する表現

NG: 「絶対に痛くない治療」「100%成功」 OK: 「痛みの軽減に配慮した治療を心がけています」

NG: 「副作用は一切ありません」 OK: 「副作用のリスクについて事前に説明します」

NG: 「必ず白くなります」(ホワイトニング) OK: 「ホワイトニング効果には個人差があります」

比較・優位性に関する表現

NG: 「他院より優れた治療」「当院だけの特別な技術」 OK: 「○○学会認定の△△治療法を導入しています」

NG: 「一般的な治療では不可能」 OK: 「当院では○○治療に対応しています」

評価・人気に関する表現

NG: 「患者様大満足」「口コミで大人気」 OK: 「患者様アンケート結果を公開しています(第三者機関調査)」

NG: 「芸能人も通う歯科医院」 OK: 記載不可(著名人の来院を広告利用することは禁止)

資格・専門性に関する表現

NG: 「インプラント専門医」(公的資格なし) OK: 「日本口腔インプラント学会認定医」

NG: 「矯正のスペシャリスト」 OK: 「日本矯正歯科学会認定医」

料金に関する表現

NG: 「どこよりも安い」「業界最安値」 OK: 「インプラント1本35万円から(税込)」

NG: 「今だけ特別価格」 OK: 通常料金を明記し、期間限定の料金設定は避ける

その他の表現

NG: 「完璧な治療」「理想的な結果」 OK: 「患者様のご希望に沿った治療を目指します」

NG: 「一生持ちます」(インプラント) OK: 「適切なメンテナンスにより長期使用が可能です」

これらの例を参考に、自院のホームページを見直してください。

 

5.違反した場合の罰則と行政指導の実態

医療広告ガイドライン違反は、単なる注意喚起で終わらない深刻な問題です。実際の処分内容を理解しましょう。

行政指導のプロセス

違反が発覚すると、まず保健所から「指導」が行われます。電話や文書で、違反箇所の指摘と改善要請がなされます。この段階で速やかに修正すれば、それ以上の処分は通常ありません。

しかし、指導に従わない、または悪質と判断された場合、「勧告」が出されます。勧告も無視すると、「命令」が出され、この命令に従わないと罰則が科されます。

罰則の内容

医療法第6条の8に基づく命令に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに、医院名が都道府県のホームページで公表され、社会的信用を失います。

実際、2023年には、誇大広告を繰り返していた美容外科が医院名を公表され、患者離れと経営悪化に陥った事例があります。歯科医院でも、同様のリスクがあります。

ネットパトロールの実施

厚生労働省と各自治体は、医療機関のホームページを定期的に監視する「ネットパトロール」を実施しています。AIやクローラーを使って、違反表現を自動検出するシステムも導入されており、「見つからないだろう」という甘い考えは通用しません。

また、競合医院や患者様からの通報により違反が発覚するケースも増えています。インターネット上の情報は誰でも見られるため、違反は必ず発覚すると考えるべきです。

実際の摘発事例

2022年、「地域No.1の患者満足度」と表記していた歯科医院が、保健所から指導を受け、表現を削除しました。この医院は、独自のアンケート結果を根拠にしていましたが、第三者機関による調査ではなく、サンプル数も不十分だったため、客観的根拠と認められませんでした。

2023年には、「最先端のインプラント治療」と表記していた医院が勧告を受けています。何をもって「最先端」と判断したのか説明できず、誇大広告と認定されました。

 

6.適法な範囲で医院の強みを伝える代替表現

比較広告や最上級表現が使えないなら、どうやって医院の強みをアピールすればいいのでしょうか。適法かつ効果的な代替表現をご紹介します。

客観的事実を具体的に記載

「地域No.1」ではなく、「開業20年」「延べ治療患者数5万人」「年間インプラント手術200症例」など、検証可能な事実を具体的な数字で示します。患者様は、これらの情報から医院の実績を判断できます。

資格・認定を明示

学会認定の資格があれば、それを明記します。「日本口腔インプラント学会認定医」「日本歯周病学会専門医」など、公的な資格は信頼性の証明になります。ただし、資格名は正確に記載し、有効期限も確認してください。

設備・技術を具体的に説明

「最先端の設備」ではなく、「2024年導入のシロナ社製歯科用CT『ガリレオス』」のように、メーカー名、型番、導入時期を明記します。「痛みの少ない治療」ではなく、「電動麻酔器と表面麻酔を使用した麻酔方法」と具体的に説明します。

治療方針・姿勢を丁寧に説明

「最高の治療」ではなく、「患者様一人ひとりに合わせた治療計画を立案します」「インフォームドコンセント(説明と同意)を重視しています」と、医院の姿勢や方針を丁寧に説明します。

第三者評価を活用

第三者機関による客観的な評価があれば、それを記載できます。「日本医療機能評価機構の認定取得」「ISO9001認証取得」など、公的な認証は信頼性の証明になります。ただし、自院で実施したアンケートや、根拠不明の「ランキング1位」は使えません。

ビフォーアフターは慎重に

治療前後の写真は、適切な条件下であれば掲載できますが、「劇的改善」「驚きの効果」といった誇大表現を添えると違法です。写真には、治療内容、期間、費用、リスク・副作用を必ず併記してください。

まとめ

医療広告ガイドラインは、比較広告、最上級表現、主観的評価を厳しく規制しています。「地域No.1」「最先端の治療」「絶対に痛くない」といった表現は、客観的根拠がない限りすべて違法です。ホームページも広告として規制対象であり、違反すれば行政指導、罰金、医院名の公表というリスクがあります。

「専門医」は学会認定が必須で、資格なしに名乗ると違法です。「専門」も、実際にその診療を専門的に行っていなければ虚偽広告となります。OK表現とNG表現を具体的に理解し、自院のホームページを見直してください。

適法な範囲で医院の強みを伝えるには、客観的事実(開業年数、症例数、設備の具体名)、公的資格(学会認定医)、治療方針の丁寧な説明、第三者認証の活用が効果的です。「地域No.1」ではなく「開業20年の実績」、「最先端」ではなく「2024年導入の歯科用CT」というように、具体的かつ客観的に表現します。

医療広告規制は、患者様の適切な医療機関選択を守るためのものです。規制を遵守することは、法的リスクを回避するだけでなく、患者様からの信頼を獲得する基盤となります。今日から自院のホームページを見直し、適法かつ誠実な情報発信を心がけてください。コンプライアンスの徹底が、長期的な医院経営の成功につながります。

 

投稿者プロフィール

NAOKI OZAWA
歯科コンサルタント小澤直樹
2002年よりコンサルティング活動を開始。2008年から歯科コンサルタントとして勤務した後20017年より現職。

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