新人歯科衛生士が3年以内に辞めない育成プログラムの作り方

歯科衛生士の離職率は依然として高く、新卒入職者の約40%が3年以内に退職するというデータがあります。採用に成功しても、育成の仕組みが整っていなければ早期離職につながり、採用・教育コストが無駄になってしまいます。

本記事では、歯科医院コンサルティングの現場で実際に離職率を大幅に改善した育成プログラムの作り方を、具体的なステップとツールを交えて解説します。

 ━目 次━
 1. 新人歯科衛生士が辞める3つの主な理由
 2. 効果的な育成プログラムの全体像
   ステップ1:入職前〜1ヶ月目の導入研修
   ステップ2:2ヶ月目〜1年目の技術研修
   ステップ3:メンター制度の導入
   ステップ4:キャリア面談と成長支援
 3. 育成プログラムを機能させる3つのポイント
 4. まとめ:定着率向上は仕組みで実現する

 

 

1. 新人歯科衛生士が辞める3つの主な理由

育成プログラムを設計する前に、なぜ新人が辞めるのかを理解することが重要です。当社が支援した歯科医院での退職理由を分析すると、以下の3つに集約されます。

1. 教育体制の不備

「何を学べばいいのかわからない」「質問しづらい雰囲気」「放置されている感覚」といった声が多く聞かれます。体系的な教育カリキュラムがなく、場当たり的な指導になっていることが原因です。

2. 人間関係の悩み

先輩との相性、院長とのコミュニケーション不足、孤立感など、職場の人間関係に起因する退職は非常に多いです。特に入職後3〜6ヶ月の時期に問題が表面化しやすい傾向があります。

3. 将来への不安

「この医院で成長できるのか」「キャリアパスが見えない」という不安から、より環境の良い医院への転職を考えるケースです。明確な成長ステップが示されていないことが原因となります。

 

2. 効果的な育成プログラムの全体像

新人歯科衛生士の定着率を高める育成プログラムは、以下の4つの柱で構成します。

柱  内容  期間
導入研修  医院理念・基本業務の習得  入職〜1ヶ月
技術研修  段階的なスキルアップ  2ヶ月〜1年
メンター制度  精神的サポート体制  1年間継続
キャリア面談  成長確認と目標設定  四半期ごと

この4つを連動させることで、技術面・精神面の両方から新人をサポートする体制が整います。

 

ステップ1:入職前〜1ヶ月目の導入研修

入職前のオリエンテーション

入職日を迎える前の準備が、実は定着率に大きく影響します。院長やスタッフからの手書きメッセージカードを郵送する、医院理念や診療の流れ、スタッフ紹介などをまとめた資料を事前に送付する、初日のスケジュールを連絡して不安を軽減するといった取り組みが効果的です。

この段階で「歓迎されている」という実感を持ってもらうことが、その後の定着に大きく影響します。

1週目:基本業務の習得

入職1週目は、診療補助に入る前の基礎固めに集中します。

<習得項目チェックリスト>
• 医院の理念・方針の理解
• 院内の設備・器具の配置確認
• 感染対策・滅菌業務の手順
• 電話対応・受付業務の基本
• 予約システムの操作方法
• 緊急時の対応フロー

各項目について、「説明を受けた」「実践した」「一人でできる」の3段階でチェックし、進捗を可視化します。

2〜4週目:診療補助の基礎

2週目以降は、実際の診療補助に段階的に入っていきます。

<週ごとの目標設定例>
• 2週目:器具の受け渡し、バキューム操作の基本
• 3週目:印象採得の補助、セメント練和
• 4週目:簡単な処置の補助を一人で担当

1ヶ月目の終わりには、基本的な診療補助が一人でできる状態を目指します。

 

ステップ2:2ヶ月目〜1年目の技術研修

スキルマップの作成

技術研修を体系化するために、スキルマップを作成します。これは、習得すべきスキルを一覧化し、現在の習熟度を可視化するツールです。

<スキルマップの項目例>

カテゴリ  スキル項目  目標時期
予防処置  スケーリング(前歯部)  3ヶ月目
予防処置  スケーリング(臼歯部)  6ヶ月目
予防処置  SRP基礎 9ヶ月目
予防処置  PMTC 4ヶ月目
患者対応  TBI(基本)  2ヶ月目
患者対応  TBI(小児・高齢者対応)  6ヶ月目
患者対応  栄養指導の基礎  9ヶ月目
診療補助  印象採得  4ヶ月目
診療補助  ホワイトニング補助  6ヶ月目

習熟度は5段階(1:未経験 → 5:指導できる)で評価し、月1回更新します。

OJTとOff-JTの組み合わせ

効果的な技術習得には、日常業務での実践(OJT)と、業務外での学習(Off-JT)を組み合わせることが重要です。

OJT(日常業務での実践)

OJTでは、先輩衛生士の施術見学から始め、段階的に担当患者を割り当てていきます。施術後には必ずフィードバックの時間を設け、良かった点と改善点を具体的に伝えることが成長を加速させます。

Off-JT(業務外での学習)

Off-JTとしては、月1回の院内勉強会、外部セミナーへの参加(費用補助制度があると参加率が上がります)、動画教材の視聴などを組み合わせます。特に重要なのが相互実習の時間確保で、週に1〜2時間程度、スタッフ同士で練習する時間を業務時間内に設けることを推奨します。これが技術向上のスピードを大きく左右します。

段階的な担当患者の割り当て

新人に担当患者を割り当てる際は、難易度を段階的に上げていくことが重要です。

担当患者の段階設定
• レベル1(2〜3ヶ月目):メインテナンス患者、歯周状態が良好な方
• レベル2(4〜6ヶ月目):軽度歯周炎の患者、定期検診の方
• レベル3(7〜9ヶ月目):中等度歯周炎の患者、初診患者
• レベル4(10〜12ヶ月目):複雑なケースを含む幅広い患者層

いきなり難しいケースを任せると自信を失わせてしまうため、成功体験を積み重ねられる設計が大切です。

 

ステップ3:メンター制度の導入

メンターの役割と選定基準

メンターは、技術指導だけでなく精神的なサポートを担う存在です。教育担当とは別に、相談しやすい先輩を1名アサインします。

メンターの選定基準

メンターには、入職3年目以上でコミュニケーション能力が高く、新人の立場に立って考えられる人を選びます。感情的にならず冷静に対応できることも重要な条件です。技術的に最も優れた人ではなく、「話しやすさ」を重視して選ぶことがポイントです。

メンター面談の頻度と内容

メンター面談は、以下の頻度で実施します。
• 入職1〜3ヶ月目:週1回(15〜30分)
• 入職4〜6ヶ月目:隔週1回(30分)
• 入職7〜12ヶ月目:月1回(30分)

面談で確認すべき項目

面談では、業務で困っていること、人間関係の悩み、体調・メンタル面の状態、今後チャレンジしたいことなどを確認します。メンターは面談内容を記録し、深刻な問題があれば院長に報告する体制を整えます。ただし、本人の同意なく情報を共有しないというルールを明確にし、信頼関係を構築します。

メンター自身へのサポート

メンターを担当するスタッフにも負担がかかるため、適切なサポートが必要です。月3,000〜5,000円程度のメンター手当を支給する、四半期に1回メンター同士の情報交換会を開催する、院長との定期的な相談機会を設けるといった対策が有効です。メンターが孤立しないよう、組織全体で新人育成に取り組む姿勢を示すことが重要です。

 

ステップ4:キャリア面談と成長支援

四半期ごとのキャリア面談

3ヶ月に1回、院長または管理職との面談を実施します。メンター面談とは異なり、中長期的なキャリアについて話し合う場です。

キャリア面談のアジェンダ

1. この3ヶ月間の振り返り(成長したこと、課題)
2. スキルマップの進捗確認
3. 次の3ヶ月の目標設定
4. 1年後、3年後にどうなりたいか
5. 医院への要望・改善提案

面談内容は記録し、次回の面談時に進捗を確認します。「ちゃんと見てもらえている」という実感が、定着率向上に直結します。

明確なキャリアパスの提示

新人が将来像を描けるよう、医院としてのキャリアパスを明示します。

キャリアパスの例

年数 役割 主な業務・スキル
1年目 新人 基本業務の習得、担当患者の確立
2〜3年目 中堅 後輩指導の補助、専門分野の深化
4〜5年目 リーダー 新人教育の主担当、業務改善提案
6年目〜 チーフ 衛生士部門の統括、経営への参画

役割ごとに期待される成果と、それに伴う処遇(給与・手当)も併せて示すことで、努力の方向性が明確になります。

資格取得・専門性向上の支援

意欲のあるスタッフには、専門性を高める機会を提供します。認定歯科衛生士の取得支援や学会参加費・セミナー費用の補助、院内での専門分野(矯正、インプラント、小児など)の確立、外部講師を招いた研修会の開催などが考えられます。
「この医院にいれば成長できる」という実感が、長期定着の大きな動機になります。

 

 

3. 育成プログラムを機能させる3つのポイント

1. 院長自身のコミットメント

育成プログラムの成否は、院長の姿勢にかかっています。「教育は現場に任せる」ではなく、院長自身が新人の成長に関心を持ち、声をかけることが重要です。
週に1回、新人に「最近どう?」と声をかけるだけでも、「見てもらえている」という安心感につながります。

2. 育成担当者の負担軽減

教育を担当するスタッフに負担が集中しないよう、対策を講じる必要があります。教育時間を業務時間として正式に認め、担当患者数を調整し、教育担当手当を支給する。また、複数名で分担する体制を作ることで、特定の人に負担が偏らないようにします。
育成担当者が疲弊すると、新人への対応が雑になり、離職につながる悪循環が生まれます。

3. 定期的な制度の見直し

育成プログラムは、一度作って終わりではありません。新人の退職があった場合は退職理由を分析し、年度末には1年間の振り返りを行います。また、新人からのフィードバックを半年後と1年後に収集し、現場の声を反映させながら継続的に改善していくことが大切です。

 

 

4. まとめ:定着率向上は仕組みで実現する

新人歯科衛生士の定着率向上は、個人の努力や相性の問題ではなく、仕組みの問題です。本記事で紹介した4つの柱を軸に、自院に合った育成プログラムを構築することで、3年以内の離職を大幅に減らすことができます。

育成プログラム4つの柱(まとめ)

 1. 導入研修:入職前の準備と1ヶ月目の基礎固め
 2. 技術研修:スキルマップによる体系的な成長管理
 3. メンター制度:精神的サポートによる孤立防止
 4. キャリア面談:成長実感と将来像の共有

育成にかける時間とコストは、採用をやり直すコストよりもはるかに小さいものです。今いるスタッフを大切に育てることが、結果的に医院の成長につながります。
当社では、各医院の状況に合わせた育成プログラムの設計支援を行っています。スタッフの定着に課題を感じている先生は、まずは現状の育成体制の棚卸しから始めてみてください。

 

 

 

【ご相談・お問い合わせ】

  • 株式会社リバティーフェローシップ
    東京歯科経営ラボ
  • TEL:03-4405-6234
  • メール:n-ozawa@tdmlabo.com
  • Web:https://tdmlabo.com/

 

投稿者プロフィール

NAOKI OZAWA
歯科コンサルタント小澤直樹
2002年よりコンサルティング活動を開始。2008年から歯科コンサルタントとして勤務した後20017年より現職。

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